- 初版:2018年12月
- 第二版:2019年12月
はじめに
本エントリーはMicrosoft Azure Stack Advent Calendar 2018の2日目です。
先日のエントリでは、Azure Stack Hub とは何なのかについてお話ししました。本エントリでは、Azure Stack Hub のユースケースについてお話しします。ただし、あくまでも概念的な部分にとどめて具体的な実装には触れません。あらかじめご了承ください。
Microsoft の想定するユースケース
2018年9月に開催された Microsoft Ignite 2018 において、Azure Stack 開発チームのジェネラルマネージャーである Natalia Mackevicius 氏は、次の3つのユースケースを語りました。これら3つのユースケースについて1つずつ説明していきます。
- Edge & Disconnected
- Regulatory & Data Sovereignty
- Application Modernization
引用:Azure Stack Overview and Roadmap - BRK2367
ユースケース1 Edge & Disconnected
1つ目のユースケースが Edge & Disconnected です。このユースケースにおける課題と解決策のサマリは次の通りです。
シナリオ | 課題 | 解決策 |
---|---|---|
Edge | 大量のデータを Microsoft のデータセンタに送るのが大変 | データが生成される場所に Azure Stack Hub を置く |
Disconnected | Microsoft のデータセンタと通信するためのネットワークを確保できない | Azure Stack Hub を Disconnected Deployment で導入する |
Edge
IoT やビックデータの世界において、大量のデータは Azure のデータセンタではない場所、つまり Edge で生成されます。生成された大量のデータを Azure のサービスで分析して気づきを得るためには、大量のデータを Microsoft のデータセンタに転送しなければなりません。しかし、回線帯域や距離、遅延の問題から、大量のデータを Microsoft のデータセンタに転送するのに時間がかかるという問題が生じる可能性があります。データから気づきを得るために時間がかかることは、ビジネス上の損失に繋がります。
Azure のサービスを好きな場所で利用できるという Azure Stack Hub の特徴を利用すれば、この課題を解決できます。大量のデータが生成される場所に Azure Stack Hub を設置すれは、大量のデータとAzure のサービスの距離が近づくのでデータの転送時間を短縮できます。Azure Stack Hub 上で一次処理を行いデータ量を減らしたうえで、必要なデータだけを Azure 上に転送するといった連携も考えられます。結果として、大量のデータから気づきを得る時間が早くなり、ビジネス上の機会損失を減らせます。
Disconnected
Azure のサービスを利用するためには利用者と Microsoft のデータセンタがネットワークで繋がっている必要があります。そのため、Microsoft のデータセンタとのネットワーク接続を用意できない環境、またはネットワーク接続が安定しない環境では Azure を利用できません。
好きな場所で利用できるという Azure Stack Hub の特徴を利用すれば、この課題を解決できます。Azure Stack Hub には Disconnected deployment という導入方式が存在します。この方式の Azure Stack Hub はインターネットと通信できない環境でも動作します。つまり、Azure とのネットワーク接続を用意できない切断された環境でも、Azure のサービスを利用できるようになります。
ユースケース2 Regulatory & Data Sovereignty
2つ目のユースケースが Relguatory & Data Sovereignty です。このユースケースの課題と解決策は次の通りです。
シナリオ | 課題 | 解決策 |
---|---|---|
Reguatory | ルールによって Microsoft のデータセンタにデータを預けられない | ルールを満たせる場所に Azure Stack Hub を置く |
Data Sovereignty | 自分たちの管理できる場所にデータを置きたい | 自分たちが管理できる場所に Azure Stack Hub を置く |
今日の情報システムは、セキュリティやガバナンスの観点から次の制約を受ける場合があります。
- 社会の法律や業界のルールによって、データを Microsoft のデータセンタではない場所に保存しなければならない
- 自分たちの管理下にデータを置かなければならない
これらの制約を受けた場合、Azure の サービスにデータを保存できなくなります。データの保存だけでなく、Azure のサービスそのものを利用できないケースもあるでしょう。
好きな場所で利用できるという Azure Stack Hub の特徴を利用すれば、これらの制約を受けることなく Azure のサービスを利用して情報システムを構築できます。法律やルールによって指定された場所や自分たちの管理下にある場所に Azure Stack Hub を設置すれば、ルールとガバナンスに準拠しつつ Azure のサービスのメリットを享受できます。
ユースケース3 Application Modernization
3つ目のユースケースが Application Modernization です。このユースケースの課題と解決策は次の通りです。
シナリオ | 課題 | 解決策 |
---|---|---|
Application Modernization | オンプレミスの世界でも Azure と同じ文化でアプリケーションを開発したい | パブリッククラウドの Azure と同じサービスを提供する Azure Stack Hub を導入する |
Azure だけでなくオンプレミスも利用するという経営判断を下した場合、Azure に慣れていればいるほど、オンプレミスでも Azure と同じようにインフラを運用管理してアプリケーションをデリバリしたくなるでしょう。
Azure のサービスを利用できるという特徴を利用すれば、この問題を解決できます。Azure Stack Hub は Azure のサービスを提供してくれます。したがって、インフラの運用管理であれば、オンプレミスにもかかわらず Azure と同じように ARM Template や Ansible、Terraform などのツールを使って infrastructure as code を実践できます。アプリケーションのデリバリであれば、オンプレミスにもかかわらず Azure と同じように Visual studio や CI/CD Pipeline からアプリケーションをデプロイできます。Azure Stack Hub を利用すれば、オンプレミスにパブリッククラウドの文化を持ち込み、Azure と同じようにインフラを構築してアプリケーションをデプロイできる環境が簡単に手に入ります。あとは実践するだけです。
まとめ
本日のエントリでは、Microsoft が想定している Azure Stack Hub のユースケースを説明しました。あくまでも Microsoft のユースケースなので、これら以外の使い方をしている人もいるかもしれません。興味関心を持つ人が増えれば増えるほど面白いユースケースが増えていくでしょう。楽しみです。